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(1)<かびと言われるもの>
梅雨の季節になり、かびを見ることが多くなりました。かびを見るとあまりいい気持ちになることはないと思います。しかし、あまり知らないところでかびのお恩恵も多く受けています。
今回はかびについて簡単に説明します。
かびは、外見的な形態によって一群の菌類(きんるい)に対して与えられた一般名称です。キノコやイーストという名称と同様に、分類学的な意味はもっていません。
狭い意味で用いれば、子実体(しじつたい:きのこ)を形成しない、糸状菌の姿を持つ、つまり菌糸からなる体を持つ菌類のことです。
(2)<かびの分類上の位置づけ>
少し難しいですが、学問的にかびの分類はつぎのようになります。
かびは菌界(きんかい)と言われるもののなかに属します。
(生物の分類)
ドメイン → 界(かい) → 門(もん) → 網(こう) → 目(もく) → 科(か) → 属(ぞく) → 種(しゅ)種(しゅ)は分類の中で、一番こまかい分類です。
かびは分類上はつぎのようになります。ドメイン :真核生物(しんかくせいぶつ)
界 :菌界(きんかい)
門 :子嚢菌門(しのうきんもん)
(3)<菌界(きんかい)の分類>
少し専門的になりますが、菌界の分類を説明します。
A.真菌(しんきん)
広い意味でのかびを表します。
外部の有機物を利用する従属栄養生物であり、分解酵素を分泌して細胞外で養分を消化し、細胞表面から摂取します。
かびも酵母もキノコとともに真菌と呼ばれる同じ仲間の生物です。真菌の中で酵母は単細胞で主に出芽や分裂によって増えるもの、かびは菌糸という糸状の細胞を伸ばして成長するもの、キノコは菌糸が集合して傘のような集合体(子実体:しじつたい)を作るものの俗称です。
1.キノコ | |||||||||||||||||||||||||
菌類のうち比較的大型の子実体(しじつたい)を形成するものです。 |
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2.かび(狭い意味のかびです) | |||||||||||||||||||||||||
胞子から菌糸を基質(建材、食器などかびが付着する相手)の中に伸ばし、糸状で盛んに分枝して栄養体を作ります。次に、生殖期に入りますと、図1のように気中に菌糸を出し、その先端あるいは側面から胞子柄を直立し、その先端に胞子を実らせます。 繁殖したかびは、しばしば有色の大集落を形成して、われわれを驚かせます。 |
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3.酵母(こうぼ) | |||||||||||||||||||||||||
英語ではイースト:Yeastと言われます。
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B.細菌(さいきん)
細胞核を持たない生物です。
真菌(しんきん)よりはるかに大きさが小さい。
1.真正細菌(バクテリア) | ||
大腸菌 | ||
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グラム陰性菌 グラム陽性菌 |
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2.古細菌 | ||
海底火山付近の菌 |
(4)<かびの種の数>
菌類の既知種として約8万種が知られており、発見されているものは非常に少なくて、少なめに見積っても150万種に達すると見られています。
かびについても、まだまだ十分に調べられていないので、これからいろいろな新種がみつかる可能性があります。
下の表は現在知られている種の数の一覧です。
(表-1) 生物の種類数 |
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(Groombridge) |
(5)<かびの名前>
かびの名前は、属名と種名で表します。古くから醸造に利用してきたコウジカビは、アスペルギルス・オリゼと言います。
アスペルギルスが属名で、オリゼが種名です。 アスペルギルス属は現在170種ほど世界に存在しています。
アスペルギルス・フミガタスとアスペルギルス・フラバスは病原菌として有名です。
真菌の数 6000属 70000種
(日本で見られるかびの数) | 200~300種 |
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食品以外に発生するかび | 120属 |
120種 |
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住宅に発生するかび | 80属 |
60種 |
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病原性のかび | 25属 |
50~60種 |
(6)<かびのよく発育する条件>
かびの発育には、温度、水分、栄養、酸素、水素イオン濃度(PH:ペーハー)などが関係します。
これらの条件によって活発に発育したり、発育を停止したり、死滅したりします。
かびの発育は、発育最低温度で始まり、適温で活発になり、ある高温に達するとタンパク質が変性して生育が止まります。
かびの生育温度はかびの種類によって違います。かびの最適生育温度によって高温性菌、中温性菌、低温性菌の3つに分類されます。
室内にはえるかびは中温性菌が多いです。
(表-2) かびの増殖温度 |
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(7)<かびの有効利用>
食品での有効利用
・タンパク質をアミノ酸に分解することで、風味を出します。
・デンプンを糖化します。
(使用例) | |||||
酵母 | ブドウ糖、ショ糖をエタノールに発酵する | ビール、ワイン | |||
かび、酵母 | チーズ、日本酒、焼酎、醤油、味噌 | ||||
キノコ | そのまま食用にする | ||||
酵母 | パン、ビール、ワイン | ||||
カビ | 清酒、醤油、チーズ |
(8)<かびの抵抗性の試験>
JIS Z2911 「かび抵抗性試験方法」
かび抵抗性を必要とする工業製品または、工業材料のかびに対する抵抗性を見るものです。
試験対象に決まったかびを付けて、最適条件で育成して、その状態を目視で判定します。
試験対象は次のようにわかれていて、試験内容が違っています。
(表-3) 試験用のかびの種類 |
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FERM:工業技術院微生物工業技術研究所の菌の番号 |
(9)<かびが原因でかかる病気>
かびの中には毒性を持っているものがあります。
かびその物が毒性がある場合と、かびが生成する物に毒性がある場合があります。
かびによる人の病気は次の3つがあります。
<1>真菌感染症(真菌症)
かびの胞子や菌糸の一部が取り付いた皮膚から侵入したり、呼吸または経口的に体内に取り込まれたものが定着したところで増殖し、病変を起こしたり、機能的な障害を与える病気です。
<2>真菌アレルギー症
かびによって起こる各種のアレルギー症です。
<3>真菌中毒症
かび毒(マイコトキシン)と毒キノコ等を喫食することによっても起こる食中毒です。
一部のかびは人体に対して有毒な毒素を生成します。カビの生産する毒を総称してマイコトキシンと呼びます。アフラトキシン
トリコテセン毒
(10)<かびの特定>
製品等にかびが発生したとき、まず最初にかびの種類の特定が必要になってきます。
なぜかびの特定が必要かと言いますと、かびの種類によっては毒性があるものがあります。そのため、まず毒性のあるかびかそうでないかびであるかを知る必要があるのです。
かびの特定のことを同定(どうてい)と言います。
方法としましては、発生したかびを培養(ばいよう)してまず雑菌を取り除き、純粋培養して、かびの外観等の観察から属性と種を特定します。
試験納期は約2週間で費用は十数万円ぐらいです。
(11)<まとめ>
今回かびについて簡単にまとめてみましたが、当初考えていたよりも広くて、深い世界です。まだかびの5%ぐらいしか名前が付いていないそうです。
人はどうしても目で見えるものに対しては関心をもちますが、見えないものに対してはなかなか理解できないようです。かびも目で見えるようになって初めて関心を持ちますが、かびの胞子が空気中漂っていることに対してはあまり気にとめません。
私たちは多くのかびや細菌に取り囲まれて生活しています。ただ目にみえていないので意識してないだけです。
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