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(1)<鉄の錆び>
今回は錆びについて説明します。
錆びと言えば、鉄の赤錆び(下の写真)が最も有名です。
鉄をそのまま裸で使うことはめったにありません。
表面を表面処理(メッキや塗装)しなくて、裸のまま鉄を置いておくと表面にすぐに赤錆びがでます。雨などで濡れるとすぐに錆びがでます。
従って、鉄はメッキや塗装がされるのが普通です。
自転車の空気入れのクリップの赤錆び
(2)<なぜ鉄は錆びるのでしょうか>
A.鉄が錆びるためには酸素と水が必要です。
地球の大気には酸素が約20%含まれています。そして空気中には水分が含まれています。日本の平均湿度は65%です。
地球上には酸素と水分が必ずあります。
月には酸素も水分もありませんので、月では鉄は錆びません。いつまでも
鉄はきれいなままです。
B.鉄は金属の鉄のままより、錆びた方がエネルギー的に安定です。
従って、鉄は自然界では鉄は酸素の化合物として存在します。
金属の鉄を作るためには熱を加えて還元しなければなりません。
鉄は錆びた状態(化合した状態)が自然な状態で、金属の鉄は不安定
な状態と言うことができます。
(3)<鉄の錆びの化学式>
鉄の代表的な錆びは赤錆びと黒錆びがあります。1.赤錆び Fe3O4(磁鉄鉱) | 酸化鉄 |
|
この錆びは荒くて、内部の鉄を保護することはできない。 | ||
2.黒錆び Fe2O3・H2O | 酸化鉄 |
|
赤錆びより緻密で、全面が黒錆びの場合は内部の鉄を保護する。 |
(4)<錆びを防ぐ方法>
鉄の錆びる原因を上で説明しましたので、逆に錆びる原因を取りのぞいてやればいいことになります。
それには、鉄から酸素や水とを遮断してやれば良いことになります。
その代表的な方法として、メッキや塗装があります。
メッキや塗装で鉄から酸素や水を遮断してしまえば鉄は錆びません。しかしメッキのピンホールや塗装のはがれ等で水が鉄に接触する場合があります。
鉄に酸素と水が接触しますと鉄は錆びます。
ここで、メッキや塗装とは違う方法で錆びを防ぐ方法として、ステンレスについて説明します。
ステンレスはメッキや塗装と違って表面だけでなく、本体その物が均一で錆びが出ないようになっていて、表面が傷ついても錆びがでません。
ただ、鉄より高価なクロムやニッケルを使うので、単価が高くなります。
(5)<ステンレスについて>
ステンレス(Stainless)とは言葉どうりステン(サビ)レス(なし)です。
ステンレスはなぜ錆びないのでしょうか。ステンレスには鉄以外にクロムやニッケルが含まれています。
ステンレスに含有するクロム(Cr)と空気中の酸素とが結合して不動態皮膜ができ、その皮膜が緻密で空気を通さないために錆びないのです。
この膜は非常に薄くて5ナノメートルで透明です。
ステンレスには大きく分けて3種類あります。
1.オーステナイト系(クロム+ニッケルが入っている)代表 SUS304
2.フェライト系(クロムが入っている)代表 SUS403
3.マルテンサイト系(クロムが入っている)代表 SUS430
1.のオーステナイト系は磁石が付きません。2.のフェライトと3.のマルテンサイトは
磁石が付きます。
また、18-8(じゅうはち-はち)と書いてある場合がありますが、最初の18がクロム
の含量の%で後の8はニッケルの含量の%です。
この数字が大きいほどクロムやニッケルの含量が多くなり、錆びにくく高級とされます。
18-10ステンレス表示
(鉄72%、クロム18%、ニッケル10%)
(6)<メッキについて>
メッキは金属や樹脂の表面にニッケル、クロム、亜鉛、金などの薄い膜を作ることを言います。
「めっき」は滅金(めっきん)と言う言葉からきたもので日本語です。
英語ではplatinng(プレイティング)と言います。
昔のメッキ方法は金を水銀にと溶かして(アマルガム)にして仏像などに塗って後で熱を加えて水銀だけを蒸発させて金だけを残す方法でメッキしていました。
金を水銀に溶かすと金が水銀の中に消えたようになるので、滅金(金が滅する)と呼ばれていたわけです。
めっきんがめっきに転化したと言われています。
(7)<さびを防ぐメッキ(防食めっき)>
メッキの目的の一番大きなものは金属(鉄)のさびを防ぐものです。
代表的なメッキは次の3つです。
1.亜鉛メッキ
2.ニッケルメッキ(ニッケル-クロムメッキ)
3.スズメッキ
メッキは電気メッキと溶融(ようゆう)メッキに分かれます。
電機メッキはメッキしようとする品物とメッキ金属を電解液につけて電気を流してメッキする方法です。
溶融メッキはメッキ金属の温度を上げて液体にして、その槽のなかを鉄板を連続的に通して表面にメッキ金属を付着した後に空気中で冷やしてメッキ金属を固まらす方法です。
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亜鉛メッキ |
ニッケルメッキ |
(8)<金属のイオン化傾向>
昔化学の授業で、金属のイオン化傾向を習った覚えのある方が多いと思います。
その当時はこんなイオン化傾向を学んで、何に使えるのかと感じた人もいると思います。
メッキの防食効果を考える上で、このイオン化傾向は必要になってきます。
イオン化傾向の大きな金属ほどイオンになり易いことで、すなわち錆びやすいことです。
金属のイオン化傾向の大きい順番 (イオン化傾向の大きいほど錆びやすい) 亜鉛 > 鉄 > ニッケル > すず > 銅 > 銀 > 金 |
亜鉛メッキの場合は、亜鉛は鉄より錆び易いので亜鉛が錆びることで鉄の錆びを防ぎます。
一方、ニッケルメッキはニッケルの方が鉄より錆びにくいので鉄表面覆うことで酸素や水を遮断して鉄の錆びを防ぎます。ただし、ニッケルメッキの層にピンホール(穴)ができるとニッケルメッキの下の鉄が錆び易くなります。
(9)<亜鉛メッキ>
亜鉛メッキの亜鉛は鉄より錆び易いので、亜鉛メッキ品をクロム酸液に漬けてロム化合物の膜で覆います。
これをクロメート処理と言います。
今まではこのクロメート処理は6価のクロム酸液を使用していましたがROHS(ローズ)の有害物質の使用禁止で、3価のクローム酸液に移行しています。
ただ、6価クロム酸処理の方が錆びにくいと言われています。
(10)<ニッケルメッキ>
ニッケルは鉄よりイオン化傾向が小さいので、鉄より錆びにくい金属です。
そのため鉄を完全に覆っていないと逆に鉄が錆び易くなります。
メッキにはピンホールといってメッキ表面に小さな穴があいている場合があります。
メッキ層が薄いとこのピンホールが素地の鉄まで達する数がふえます。
したがってメッキのニッケルの層は厚い方が錆びにくいと言えます。
通常のニッケルメッキの厚みは5ミクロ程度です。
このニッケルの上に非常に薄い(0.1ミクロン)クロムメッキを行うことがあります。ニッケル-クロムメッキといいます。
ニッケルメッキだけの場合より錆びにくく、表面が少し青っぽい金属色で高級感がでます。
次に、メッキと並んで代表的な表面保護膜の塗装について説明いたします。
(11)<塗装について>
塗装は樹脂状の物を金属表に塗って,固めたものです。
鉛筆から宇宙船まで塗装してない物を見出すのは困難なぐらいです。
塗料業界の規模を説明しますと次のようです。
塗料工業 200万トン/年7900億円/年
一方、鉄の腐食による損失はつぎのように試算されています。
鋼の腐食損失 年間 1000億円
すごく大きな金額が錆びによって失われています。
(12)<塗料の構成成分>
塗料はビヒクル(樹脂と溶剤)と顔料で構成されています。
ビヒクルとは塗料の樹脂とそれを溶かしている溶剤からなります。
溶剤は塗り終わった後、空気中に気さんして、無くなってしまいます。
このビヒクルに顔料(がんりょう)を混ぜたものがいわゆる塗料といいます。
総称としてエナメルと呼ばれます。
一方、ビヒクルに顔料を入れず透明のままで使われることがあります。
これは透明塗料でクライヤーやニスと呼ばれます。
(塗料の成分) | ||
塗膜形成主要素 | ||
ビヒクル | 塗膜形成助要素 | |
溶剤 | ||
顔料 |
この塗膜形成主要素は塗料の性能の中心で、この成分によって塗料が分類されます。
- 油性ペイント
- 油ワニス
- ニトロセルロースラッカー
- フェノール樹脂塗料
- アルキッド樹脂塗料
- アミノアルキッド樹脂塗料
- エポキシ樹脂塗料
- カシュー樹脂塗料
- ビニル樹脂塗料
- アクリル樹脂塗料
- ポリエステル樹脂塗料
- 合成樹脂エマルジョンペイント
- 水溶性樹脂塗料
(14)<塗装による防錆び効果>
塗膜はメッキのニッケルメッキと同様に、素地金属の上に塗装膜が形成されて金属素地から空気や水を遮断することによって錆びを防ぎます。
塗膜はメッキほど緻密な層を形成しませんので、メッキより厚く塗る必要があります。
通常塗膜の厚みは20ミクロ以上です。また、塗膜の乾燥を速めたり、性能向上のため熱を加えて化学反応を起こさせる場合があります。
(静電気がたまらないのでほこりが付きにくい)
- 表面硬度が高い
- 高級感がある
- 電気が通る
- 色の種類が多い
- 大きな物でも塗れる
- 現場で後からでも塗れる
- 温たかみがある
(16)<まとめ>
錆びによる経済的損失は非常に大きいものがあります。日本だけでも年間1000億円という試算もあります。
消極的に錆びを防ぐだけでなく、商品価値を高めるためにメッキしたり塗装したり、またステンレスを使用したりします。
日本の梅雨時は高温多湿の環境になりやすく、錆びが発生しやすくなります。
倉庫は基本的には空調がないため、保管中に錆びることがあります。
朝晩の寒暖差による製品表面の結露が錆びの発生原因となる時があります。
製品のメッキや塗装の品質管理と保管場所の温湿度に十分注意をはらう必要があります。
錆びの現象は簡単で見て分かります。しかし錆びないようにするのは大変難しいです。経済的にメッキや塗装の費用は安くする必要があります。また作業性も考慮しなければなりません。そして保管の問題がありますし、使用状態も錆びに対して大きな影響を与えます。
これらを総合的に考えてメッキの種類や厚み、塗装の種類や厚みを決定しなければなりません。
地道な日頃のノウハウの蓄積が必要になってきます。
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