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第52回目

第52回「ガス-マス(GC-MS:ジーシー/マス)分析」について

(1)<ガス-マスとはなにか>
ガス-マス(GC/MS)とは何かと言いますと、ガスはガスクロマトグラフィの事であり、マスはマススペクトルのことです。
このガス-マスとは有機物(簡単に言えば燃える物です。プラスチック、塗料接着剤、インキ、ガソリン油など)の分析をする機械のことです。
このガス-マスが有機物の分析に威力を発揮します。
分析には定性分析(どんな種類のものかを調べる)と定量分析(その種類の物がどれだけ含まれているのかを調べる)の2種類があります。
ガス-マスは定性分析と定量分析の両方ができます。
また、非常に少量のサンプル(試料)で分析が出来ます。例えば、液体のガソリンみたいなものであれば、0.2cc(水滴の1滴ぐらいの量)で十分分析できます。
分析自体は時間がかかりません。せいぜい1時間もあれば十分です。
ただし費用は高くて10万円弱ぐらいです。費用が高いのはこの分析機(ガスクロマトグラフィとマススペクトル(日本語では質量分析器)が高いからです。

(2)<分析を行う目的>
プラスチックのガス-マス分析を行う目的として2つ考えられます。

【A】一つは、環境や人体に対する有害な成分が製品に入っていないかの確認です。
少し前までは、有害物質に対する取り組みは工場が中心でした。環境に有害な物を出していないかが重要な点でした。煙突から有害な成分を出していないか、廃水に有害な成分を出していないか。悪臭物質をだしていないかなどでした。
今は、工場からの排出物に対する規制は当然ありますが、製品の中に有害な成分が入っていないかがより重要になってきています。
もし製品の中に有害な成分が入っていて、それをユーザーが間違って口にいれたり、製品を触った手で食事をしたりして、口から体内に入りユーザーが病気になったりすればメーカーの責任になりかねません。
有害性については、口から入る場合と気体を吸い込む場合と手や皮膚などの経皮の3つが考えられます。
そのために製品のプラスチックの中に有害な成分がないかどうかを調べる必要がでてきます。
かりにABS樹脂で出来た製品があるとします。そうしますと、これはABS樹脂だけではありません。ABS樹脂の中には各種の添加剤が入っています。一般的には老化防止剤、安定剤、顔料、分散剤、増量剤等色んな成分が入っています。有害物質の規制値はppm(ピーピーエム)単位がほとんどです。ppm(ピーピーエム)とは100万分の1のことです。
ABSの樹脂の場合、その製品が10gとしますと、10gの100万分の1は0.00001gです。
この単位まで考える必要があります。

【B】もう一つは、製品の中の成分が当初のスペックどうりのものかどうかの確認です。
最近は、中国の原料を使う場合が増えてきています。また、中国で部品や製品を作る場合も増えてきています。
その場合、当初決めた成分どうり作っていない場合もあります。
プラスチックで成型したものは、見ただけではその成分が何か分からない場合がほとんどです。
特に、色が黒い場合はなおさらわかりません。
成分が違えば、強度が落ちるとか、色がはげるとか、臭いがする場合もあります。
そのため、製品の分析をする場合が増えてきました。

(3)<分析とはなにか>
分析とは、複雑な事項を1つ1つの要素に分けて、その構成などを明らかにすることだと辞書にのっています。
手順としては、複数の成分が混ざっている場合は、成分ごとに分離する必要があります。
この分離する分析としてガスクロマトグラフイーがあります。
次に、成分ごとに分離された各成分が何かを調べるのが質量分析と言われるものです。そして成分が分かるとその標準物質を使って検量線(けんりょうせん)を作って成分の量をはかります。

(4)<クロマトグラフィー分析の原理>
ガスクロマトグラフィーは、20世紀の初めにロシアの植物学者のミカエル・ツェットとする。
ガスクロマトグラフィーを縮めてガスクロと言われます。
ガスクロは混ざったものを分離するのに使われる分析機です。
例として黒のインキを考えると、これは黒の染料だけが使われている場合は少なくていろんな色が混じっている場合が多いです。
クロマトグラフィーの1種にペーパークロマトと言うのがあります。普通は紙にろ紙が使われます。ろ紙は紙の1種で昔はインキで書いた後でインキを乾かすために使われていました。
このろ紙に黒いインキを1滴たらします。
そうして、このろ紙(短冊型に切った物)を上からぶら下げて、下の液に漬けます。

ろ紙を液(展開液といいます:水とかアルコールです)に漬けると、液はろ紙に吸い込まれて上にあがってゆきます。
その時、インクの成分もつられて上にあがって行きます。ただ、染料の種類によって展開液になじみやすいものとなじみにくい物があり、その差によって上がって行く高さが違います。
このことによって、黒いインキは成分ごとに分離されます。
また、上がって行く高さを調べることによって、その染料がどのような染料か調べることができます。
これと同じような原理でガスクロも成分を分けて、その成分の量や種類を調べることができます。

(5)<ガスクロの説明>
先ほどはクロマトの機構を、ペーパークロマトで説明しました。
次は、ガスクロマトグラフィーの機器の説明をします。
ガスクロはペーパークロマトの液(展開液)の変わりにガスを使います。通常は窒素ガスを使います。
それと分離するものは気体(ガス)です。ガソリンなどの液体は常温でも蒸発して気体(ガス)になります。
プラスチックなどの固体は熱を加えて強制的にガス分を出したり、燃やしてガスにします。
次に、ペーパークロマトでは支持体にろ紙を使いましたが、ガスクロの場合はカラムと言って細い管を使います。
この細い管(カラム)の先端から、分離したい試料(液体が多い)を入れ、これをガス化してキャリアガス(試料のガスを流すガスです。通常チッソガスです)を流します。
そうしますと、このカラムの中を試料ガスが流れて行きますが、成分によって流れる速さに違いがあります。ペーパークロマトの染料の違いによる上がる高さの差に相当します)出口に出てきたガスを測る検知器がありそれで出てきたガスの量を測ります。
カラムの入口に試料を入れた時から出口にガスが出てくる時間の差で試料の成分が分かります。

このチャートは3種類(成分A,成分B、成分C)の成分が混ざっていたことが分かります。
通常、沸点の低いものから出てきます。

(6)<質量分析の説明>
マススペクトル
Mass Spectrometry

質量分析機の5つのブロック
     1.試料導入部
     2.イオン化部
     3.質量分離部(分析管)
     4.検出部
     5.コンピューター

真空中で、分子にイオンをぶっつけて、分子をイオン化(電荷)と分解を行う。
次に、質量分離部で磁石の力で、その質量/電荷の大きさで飛行経路を曲げる。
この曲げられた飛行経路が検出部に当たって、その位置と明るさによってその質量と相対的な量が分かります。

マススペクトルは、分子の分子量と分子式を直接教えてくれるスペクトルです。
例題としまして、エチルアルコール(エタノールともいわれる。通常のお酒に入っているアルコールです。)

構造式はつぎのようになります。  

化学式はC26Oです。
              分子量は12×2+1×6+16×1=46です

これを、マススペクトルで分析すると、次のようなスペクトルが得られます。

このスペクトル図から、エチルアルコールと分かります。

(7)<定性分析(ていせいぶんせき)と定量分析(ていりょうぶんせき)>
定性分析とはその成分が何かを調べることです。例えばお酒を分析して、エチルアルコールが入っていると調べることです。
定量分析は、お酒の中にエチルアルコールが何%入っているかを調べることです。
ガスクロで、定性分析をする場合はガスクロの機械に未知の成分を入れて、検出されるまでの時間を測定します。
次に、恐らくこの成分だと推測した成分の試薬をガスクロにいれます。そうして、検出されるまでの時間が同じであれば、未知の成分は今回の試薬の成分だと考えます。
次に、定量分析について説明します。
定量しようとしている成分の試薬の量を変えてガスクロに注入します。そして注入した試薬のチャートから、そのピーク面積を測定します。
試薬の量を横軸にとって、その試薬のピーク面積を縦軸にとってグラフを作ります。

次に、定量したい成分のピーク面積を測定して、その成分の量を調べます。
これは簡単な成分をガスクロだけで定性分析と定量分析を行う場合です。
もう少し複雑な成分が入っている場合は、今回説明しましたガス-マス分析が必要です。

(8)<機器分析の問題点>
測定機器を用いて分析するのを、機器分析といいます。昔やっていたフラスコやビーカーを用いて試薬を使った化学分析はほとんどされなくなりました。
人が分析を行う場合は時間がかかります。また大量にすることはできません。
機械の場合は測定が早く、人による間違いもありません。
しかし、最近の機器分析機は,ブラックボックス化(黒箱)が進んできて、原理を知らなくても分析データーが得られるようになってきました。
分析機械の中に試料を入れさえすれば、結果が出てしまう。そのため出てきた分析結果が正しいのかの判断ができなくなってきています。
機械に入れる試料が間違っていれば間違った結果がでます。

(9)<まとめ>
ガス-マス(ガスクロマトグラフィ-質量分析計 GC-MS)について説明いたしました。
この分析が、いまのところ有機物の分析には最強です。
基本的には、この分析で有機物の中に入っている成分(樹脂や添加剤、染料、顔料)の名前やその量が分かります。
欠点としましては、分析費用が高いことと分析に日にちがかかることです。
また、樹脂の中に色々な物が入っている場合は前処理(まえしょり)として、事前に分離しないといけない場合があります。
この分離にはノウハウと日にちがかかります。
分析に頼るだけでなく、先方との信頼関係を作って、先方から正確なMSDS(エムエスディエス;製品安全データシート)をもらうことが重要になってきます。
それと、受け取る側がいつでも分析が出来ることを先方に理解させることも大事になってきます。
最後はお互いの信頼関係になります。

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